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手織り生地から作る雑貨ブランド trois temps2019.10.27

手織り生地から作る雑貨ブランド trois temps

 

吉祥寺駅から徒歩20分ほど。ゆったりとしたJAZZのBGMとともに機織り機の音が聞こえてくるアトリエ兼ショップは、デザイナー・藤野 充彦 (ふじの みつひこ)さんが手掛ける「trois temps(トロワトン)」というブランドのもの。
ここではバッグやストール、アクセサリーなど、オリジナルの手織り生地を使ったユニークな小物が生産・販売されています。

糸と糸の間に含まれる空気感、そして温もりを感じられる手織り生地ですが、trois tempsの商品はそれだけに留まりません。
「手織りっぽくない手織り」を目指す藤野さんの商品は、コスモポリタンな魅力に溢れたカラフルなデザインのものばかり。

人と被らないオリジナリティと、軽くて丈夫という手織りならではの機能美を備えたアイテムは、老若男女問わず幅広い人の心を掴みます。フランスと日本を股に掛け、デザインに身を捧げてきた藤野さんに、trois tempsのストーリーをお伺いしてみたいと思います。

3つの調和を目指したユニークなブランド

フランス語で「三拍子」という意味を持つ「trois temps」。ここには藤野さんならではの想いが込められていました。

「商品と私たちとお客さん、その3つが揃うことで反応が起こる。そして、私たちが作って販売している商品というのは、デザイン・素材・技術が揃って生まれるもの。これらは全て三拍子でひとつなんですよね。単純に誰かのエゴで生まれて成り立っているものではなく、3つが常にバランス良く調和していることこそが、自分の目指すべきブランド像なんじゃないかなと。そういう想いを込めたブランド名です。あとは、僕自身が以前フランスにいたというのもあって、馴染みのあるフランス語の名前がいいなと思いそうしました」

ファッションの勉強をしに単身でフランスへ渡った藤野さん。
ファッションの専門学校を卒業した後は、現地のアパレル・クリエイターのもとでアシスタントデザイナーとして働き、フリーランスのデザイナーになったそうです。

「駆け出しの頃はなんでもやりましたね。電話取りからアイロン掛け、パターンやサンプルを取りに行ったり、いわゆる雑用全般も(笑)。クリエイターの方に色々教えてもらえたし、コネクションもできた。すごく良い経験になりました。労働ビザが取れた後はフリーランスのデザイナーとして働き計5年ほど滞在。2002年に帰国した後はアパレルの企業に勤め、その後独立したという流れです」

ファッション業界のジレンマから一念発起

フランスでの経験を携えて、アパレル企業のデザイナーとしてキャリアをスタートした藤野さん。
そこから10年という年月を経て独立した後、今のブランドを立ち上げることとなります。

「長い間、大きな組織の中に入っていると、色々と思うところが出てくるんですよ。ちょっと疲れちゃったんですね」

と、当時を振り返り苦笑い。日本におけるファッション業界の実情と葛藤を明かしてくれました。

「ファッションのサイクルって本当に早いんですよ。コレクションっていうと年2回というタームを想像される方が多いと思うんですが、実際のビジネスの世界では年6回くらいに区切って動いているんです。本当にハードな業界ですね。そして当たり前ですが、売れなかったら商品は残るし、それでも毎回大量にリリースしていかないといけない。100%消費されるものなんて狙ってできるわけではないのに、常に求められるのは10割打者。毎回成功しないといけないんです。野球でも3割打ったら良い方なのにね(笑)。10割近いヒットを狙えない奴は使えないみたいな風潮というか空気があって、そうするとやっぱり疲弊してきちゃうんですよね。セールで大量に残ってしまったりすると、なんだか自分が無駄なものを作っているような気になってしまうんです、悲しいことに」

また、さらなるジレンマとして、「本当に良いと思った素材を使えない」という悔しい経験談を語る藤野さん。

「例えば、新潟とか機織の産地で良い生地を見つけて持ち帰るでしょう。だけど、大きな企業のブランドだと、単純に『良いですね。この生地を使いましょう』とはならない。大量生産しないといけない前提の中で、色々な制限があって中々採用できないんですよね。本当に良いと思えるものなのに形にできないのはすごく残念。結局、大量に生産し消費される洋服には、簡単に手に入るコストパフォーマンスの良い素材しか使えないんです。それを続けていると、他ブランドの商品と素材がバッティングしてしまうのも致し方のないことなんですけどね」

母親の趣味がきっかけで手織りの世界へ

「自分が良いと思ったものをダイレクトにお客さんに届けたい」という想いで一念発起。

それまでの仕事を辞め独立を決意した藤野さんは、“手織り”の世界と出会います。

「独立した当初、デザイン事務所をスタートしたんです。食える食えないは別にして、自分のやりたいことができる環境に身を置きたかったという理由で設立したんですが、ちょうどそのタイミングで、当時母親がハマっていた手織りに興味を持つことになりました」

なんと、手織りに興味を持つことになったきっかけはお母様の趣味。

「母親の知り合いに手織りを教えている方がいて、最初はその方に習う形で母親が手織りを始めたんですが、それを見て面白そうだなって思った僕の方が最終的にハマってしまいましたね。ここにあるのはニュージーランド製の手織り機械なんですが、意外と簡単に手に入るみたいですよ。大変なのはIK○Aみたいに自分で組み立てといけないところで、その作業が大変でしたね(笑)」

手織りの魅力に取り憑かれた藤野さんは、手織り生地を使った商品を作るというアイディアを思いついたそうです。

「生地から作れるっていいなって思ったんですよね。最初は織り屋さんに作ってもらうためのサンプル用に作っていたんですけど、どんどん面白くなってしまって……。間に合わせの技術じゃなくて、もっと本格的に学ぼうと思うようになりました」

「手織りっぽっくない」は褒め言葉

手織りの生地を使った商品を作って売ろうと考えた藤野さんですが、コストと手間の掛かる洋服ではなく、
マフラーやバッグなどの小物を作るに至った経緯には、これまで企業で培ったデザイン仕事の経験が関係していました。

「できるだけ多くの人に使ってもらえるもの、手に取ってもらいやすい価格のもの、そして生地の性質的に向いているものという観点で考えると、洋服ではなく小物の方が良かったんです。
僕、エゴではものを作れないんですよね(笑)。どうしても、お客さんに使ってほしいという思いが先にきてしまうから。そのためには、絶対的に見た目が良くて実用的なものでないとダメなんです。
商品は使ってもらってこそだし、お客様が持っていただいた時に完結するもの。
実際に身につけた状態で鏡を見た時に良いと思っていただけないと、買っても使わなくなってしまう可能性が高いと思います。多くのお客様に長く使っていただけるものを届ける、それは僕が企業にいたデザイナーだからこそ重要視しているポイント。アーティストや作家と呼ばれる方々の発想とは違うのかもしれません」

身に付けた状態で鏡を見てしっくりくる。
商品を使っているシーンがイメージできる……、長く愛用できるものにはそういった特徴があります。
それを目指す上で藤野さんが大切にしているのは、「見た目と実用性のバランス」。
それゆえに、常に肝に命じて気にしているのは「何も言わなくても手に取ってもらえるものを作る」ということなのだとか。

「手織りの生地を使っているというのはうちの特徴ですが、うんちくは後でいいんです。まずはデザインの力で手に取ってもらいたいし、その後に手織りだから丈夫で軽くて……という部分を後付けで分かっていただければいいのかなと。『手織りだから良いでしょう』ではなく、『良いでしょう、実はこれ手織りなんです』っていうスタンスを目指したいですね。なので、手織りっぽくないって僕にとっては褒め言葉(笑)。気に入って手に取ったいただいた後に、手織りならではの機能性に驚いてもらいたい」

と、藤野さん。デザイナーを生業としていた彼だからこその発想なのかもしれません。

ちなみに藤野さんは普段、15インチのPC、iPad、手帳や資料を丸ごと自社製のトートバック入れて、短期出張などにも出かけているそう。trois tempsのバッグの強度と実用性は本当に高いようです。ビジネスマンのリピーターも多いというのがその証拠!

オリジナリティと実用性の両立を求めて

2016年には、あの「ほぼ日」とのコラボレーション商品をリリースしたtrois temps。

「その時作ったのは、手織りのオリジナル生地をプリントした手帳カバー。2パターンの柄を用意したんですが、その柄に名前をつけないといけないことになり、慌てて考えました。例えば、織り方に関しても普段『何織ですか?』って聞かれることがよくありますが、色々な技法を駆使して作成しているため、「○○織りです」と一言で表すのが実は難しいんです。手織り作家さんをはじめ、同業者の方の多くも同じように思っているらしく、あるある話のようですね。僕が織り方を開発したわけでもないので、『trois temps織りです』とはおこがましくて言えないし(笑)」

と、織り方から柄のデザイン、商品制作に至るまで全てオリジナルだからこそ発生する人知れぬ苦労や悩みも吐露してくれました。

ほぼ日以外にも色々なメーカーや企業とコラボレーションし、様々なジャンルの商品を開発・販売しているtrois temps。

藤野さんは、「有り難いことに色々なところとコラボレーションする機会が増えていて、スリッパ、スツールなどインテリアなどの新しい商品も続々と作っています。今後もさらに幅広い業界の方々とご一緒できたら」と、意気込みを語ってくれました。

シグニチャーアイテムのトートバッグは実際手に持ってみると、その軽さと精巧さに驚かされました。
人と被らない個性と実用性を備えたtrois tempsの雑貨は、ブランド物に飽きてしまったミドルエイジの男性にも人気だそう。ぜひ手に取ってその魅力を確かめていただきたいです。
なお、取材で訪れたアトリエ兼ショップでは、機織から商品の生産まで全てワンストップで行われているため、購入した商品のお直しやメンテナンスにも対応可。お気に入りを長く大切に使いたいという方には嬉しいですね。

trois temps(トロワトン)
公式サイト:https://www.trois-temps.com/
住所:東京都武蔵野市吉祥寺北町3-5-8-109
TEL:080-7004-2758
E-MAIL:mil@trois-temps.com

All Photos by Youichi UeDA

ライタープロフィール
濱安紹子(はまやす しょうこ)
猫と布団をこよなく愛する、三足の草鞋ライター。
音楽メディア、WEB系広告代理店での勤務を経てカナダ・トロントへ。 現地の日系出版社にてライター業に携わった末、帰国後よりフリーランスライターとしてのキャリアをスタート。その傍らで自身の音楽活動、酒好きが高じてバー営業も行っている。

カメラマンプロフィール
Youichi UeDA
「セガ・エンタープライゼス、ソニー・コンピュータエンタテインメントで 14 年間サウンドプログラマとして活動。現在は KKBOX でデータベースエンジニアとして勤務。本業の傍ら 2017 年より写心撮影の業務を開始。ダンスのワークショップを中心に鋭意活動中!」https://www.flickr.com/photos/youichi_ueda/

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