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印刷会社からステーショナリーメーカーへ 紙を知り尽くしたエキスパートたちが開発した「究極の書き味」

神戸派計画 印刷会社からステーショナリーメーカーへ 紙を知り尽くしたエキスパートたちが開発した「究極の書き味」2020.03.27

雑談から始まった ノート作り


「ノートを作って自社で売るなんて発想は、社内で誰も持っていなかったんですよ」。

開口一番、そう教えてくれたのは、神戸派計画でブランドマネージャーを務める多田智さん。ノートを作るきっかけとなったのは、多田さんが本社のある神戸で営業をしていた頃、顧客との雑談からだったと振り返ります。

「当時、革小物を扱うお店の店主から『印刷機あるんだからノート作って売ったらいいのに』と言われたんです。『革も仕入れて加工して商品にするんだから、紙を仕入れて加工して商品にすることはできるんじゃない?』という発想ですよね。社長も交えてそんな話をしていたら、『やってみようか』と」

 ふわっと軽いノリのような発想から始まったノート作り。
しかし、手がけるのは創業70年超の会社を支えるエキスパートたち。「せっかく作るのだから印刷会社らしく印刷技術をふんだんに盛り込もう」と丹念に仕上げたノートは、書籍のような装丁に活版印刷が美しい約400ぺージの立派なものになりました。これを顧客でもあった万年筆専門店に置いてもらうと、評判は上々。
「万年筆で書きやすい紙」と、喜ばれたそうです。

万年筆で書きやすく かっこいいノートを追求

「最初から『自分たちが作りたいものを作る!』という視点で作ったんです。装丁がかっこよくて、万年筆が裏抜けしにくい紙で、書きやすいもの。社長をはじめ数名の社員も万年筆を使っていたし、置いてもらう店も万年筆があるから、万年筆で書きやすい紙というのは外せないこだわりになった。幸いにも、会社にはいろんな種類の紙があったから、それで、万年筆で書き味をかたっぱしからテストして調べて、最初に採用したのが『バガスP-70』という紙でした」

 第1号となったノートが誕生したのは、200年頃。小売店だけでなく、神戸市が主宰するイベントでいくつかの百貨店にも卸し、完売に。「万年筆で書き味が良くてこんなにかっこいいノートはこれまでなかった」と好評でしたが、第2弾を作ろうとした矢先にバガスP-70が廃番となり、別の紙を使って販売すると思わぬ事態になります。

紙の廃番でピンチに陥り オリジナル用紙の開発に着手

「驚いたことに、評価が良くなかったんです。見た目は一切変えていない、紙だけが違うだけなのに。紙も高級印刷用紙を使ったんですけど、バガスP-70の書き味とは少し劣るんです。そこをズバッと突かれたかんじですよね」

 しかし、もう紙はない。途方に暮れていたときに、顧客から「紙を作って売ったらどうだ?」と言われたけれど、「それはこの業界では非常識だ」と思い悩んだそうです。

「紙は出版社などが、書籍や雑誌を作るときに開発することがあっても、印刷会社が率先してやるもんじゃない、という常識があったんですよね。だからそれをやるのは非常識じゃないかって。それに紙を作るとなると、100トン、200トンと、とてつもない規模になる」

そんな中、付き合いのある協力会社から「小ロットで紙を作れるところがある」という情報をもらったことが決め手となり、オリジナル用紙の開発に踏み切ります。最初に作った紙「LISCIO-1(リスシオ・ワン)」で、ノート各種や便せん、封筒、ルーズリーフなどさまざまな商品を発売。売上は好調で、商品数も増えてきた段階で、ブランディングをしようという動きが生まれました。

 

「神戸派計画」として本格始動 看板商品「GRAPHILO」誕生

「好きなようにどんどん作っていったら、デザインも統一性がなく、取っ散らかってきたんですよね(笑)。そこで会社の財産になるように整理・統一しようと、コンセプトやデザインをきちんと練ってかたちにしたのが、『神戸派計画』です。大和印刷会社は神戸で創業70年の老舗でもありますが、長年培われた職人の技術と、クリエイターのアイデアや技術のコラボレーションで新たなものを生み出したいという思いが軸にもなっています」

 神戸派計画のコンセプトの1つ、素材の良さを生かす。これこそ職人の技術によって引き出されるもの。最初に開発したオリジナル用紙のリスシオ・ワンが、製造機の廃番によって供給できなくなるというときに、「さらなる書き味の良さを追求する」ことに振り切って試行錯誤を重ね、新たな紙「GRAPHILO(グラフィーロ)」の誕生にいきついたのも職人の技術と協力なくては、成し遂げられなかったこと。

「グラフィーロは、もう、僕らの好きな書き味というのに徹底し、突き詰めていったんです。万年筆で書いたときに最高に気持ちがいい、ぬらっとした書き味を実感できる紙、それがグラフィーロです。このぬらっとというのは、万年筆で書いたときに、適度な湿度が紙に残るイメージで、ペン先が滑りすぎない。それでいて、にじみや裏抜けもほとんどない。これを実現するためには、熟練した職人の技が欠かせないんですよね」

書き味を損ねないこだわりを 製本でも実現した「GRAPHILO style」

この、グラフィーロを用いた商品は、2014年7月に文具の祭典ISOTでお披露目となり、ノートはA4、A5の2種類でそれぞれ横罫・方眼・無地の3パターンを用意。
そこからブロックメモや便せん、一筆箋などアイテムを増やし、現在11アイテムで展開されるグラフィーロシリーズですが、2016年には原点回帰を思わせるバイブルサイズのノート「
GRAPHILO style(グラフィーロ・スタイル)」を発売。画期的な作りのブック型ノートは、万年筆ユーザーだけでなく、書きたい人たちの心をつかみ、話題となっています。

▲“最高の書き味”を体感できる万年筆向けのブック型ノート

「グラフィーロのノートを発売後に、『分厚いノートが欲しい』という要望があったんです。ただ、厚みによってノートが開きにくく、書きにくいとなるのは困る。そこは印刷会社の本領発揮で、フラットに開けて壊れにくいよう随所に工夫を施しました。手間とコストをかけても、書き味が少しでも変化する要因を取り除き、グラフィーロの持ち味を守りたかった」

GRAPHILO styleの詳細はこちら

▲“最高の書き味”を体感できる万年筆向けのブック型ノート

世界を広げていくこと 楽しんで挑戦してみたい

初めてノート作りを始めてから12年、神戸派計画というブランドが生まれてから8年が過ぎた今、ブランドマネージャーの多田さんが期待すること。それは、「新しい世界観の創造」。これまで神戸派計画というブランドを軸に、看板商品を作るだけでなく、デザイナーとのコラボレーション商品の開発や、オンラインサイト「神戸派商店」の開設、OEMノベルティサービス「神戸派工場」で他の企業・団体などの商品作りのサポートをするなど、メーカーとしての基盤やノウハウもできた。

素材を活かすことを大事に考えて商品作りをしてきた結果、素材にまつわる知識と技術だけでなく、販路開拓やブランディングなどメーカーとしてのノウハウも培われた。特に紙については、ファンもついています。だから、僕たちが作った世界観をもっと広げていくために、枠にとらわれずに、やったことないことに挑戦したいという願望はあります。例えば、家具メーカーとか全く違う業種の方たちと組んで神戸派計画の書斎をイメージしたカフェとか、伝統工芸を手掛ける作家とのモノ作りとかね(笑)」

会社としてというより僕個人としての願望かもしれないけど、と最後に笑顔で付け加えた多田さん。「こういうものがあったらいい」という観点から生まれた商品は、自分たちが商品の一番のファンという証でもある。妥協せずに細部までこだわり抜く姿勢を崩さずに、楽しみながら新しい道を拓いていくことでしょう。

■神戸派計画
公式サイト:http://kobeha.com/

All Photos by Youichi UeDA

ライタープロフィール

ごとうあいこ(eyeco
フリーライター&エディター。広告代理店や出版社でライティング、制作アシスタント経験を経て、渡英・渡仏。帰国後に編集プロダクションにて編集職に従事したのち、フリーランスに。暮らしに彩りをテーマに、衣食住の中に、文化や歴史、旅、アートなど、ストーリーや作り手の魂を感じるモノを探求することが好き。現在WEBコラムも連載中。
HPhttp://room510.lomo.jp
Instagram@room510edit

カメラマンプロフィール
Youichi UeDA
「セガ・エンタープライゼス、ソニー・コンピュータエンタテインメントで 14 年間サウンドプログラマとして活動。現在は KKBOX でデータベースエンジニアとして勤務。本業の傍ら 2017 年より写心撮影の業務を開始。ダンスのワークショップを中心に鋭意活動中!」https://www.flickr.com/photos/youichi_ueda/

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