海をコンセプトにしたアートジュエリーブランド Marero
「幼少期から海とアートに囲まれて育った」と言う、ジュエリーブランド『Marero』のデザイナー・ROCOCOさん。
文化服装学院で洋服のデザインを学んだ彼女は、卒業後に単身で渡ったNYでその方向性を大きく変える出会いに遭遇したそう。
彼女が帰国し、ブランドを本格的に始動させたのは2014年のこと。作品の中には、海からもらったインスピレーションをアートに昇華させて作られたものが多く、コーディネイトの主役になる小さなオブジェのようなアイテムばかり。
性別もシチュエーションを選ばす身に付けられるのも魅力です。
「オシャレな水着を作りたい!」という志を持つファッションデザイナー志望だったROCOCOさんが、一体どうして今の道を選んだのか。『Marero』誕生までのストーリーを追いながら、ジュエリーの魅力や彼女のアイディアの源を探っていきたいと思います。
ジュエリーデザイナーを目指したきっかけはNY
「文化服装学院の卒業制作でコレクションを手がけた際、思いついたのが『marero』という名前。『Mare』はラテン語で『海』と意味、そこに『ROCOCO』の『ro』を加えてできた造語です。
昔から海が好きで、BILLABONG(サーフブランド)でインターンをしていたことも。当時はビーチウェアを作っていたんです。だけどコレクションでは、それに合わせるアクセサリーや小物を作る必要性も出てきてしまって。今思うと、あれがアクセサリーを最初に作ったタイミングでしたね」
海というコンセプトは今と変わらないものの、当時は「水着やビーチウェアのイメージをオシャレなものにしたい!」という志しを持っていたROCOCOさん。方向転換を決定づけたというNYへは、どんな理由で向かったのでしょうか?
「バイト先で海外のお客さんと喋れないのが悔しくて、語学勉強のために行ったのがNYだったんです。まあ、刺激的なイメージがあって単純に憧れていた場所だったからという理由もありますが、デザインの勉強をする気は全然ありませんでした(笑)。だけど、NYへ渡って1年くらい経った頃かな。ジュエリーデザイナーの叔母を持つ友人がいたんですが、なぜかその叔母さんの師匠に会う機会があって。『良かったらあなたもやってみる?』ってその方に言われたきっかけで、ジュエリーの世界に興味を持ちました。せっかくNYに居るのに語学勉強だけじゃ物足りないなと思ってた時期だったし、何だか面白そうだったので。そこからジュエリーデザイナーを目指す展開になるとは想像もしてなかったですね。周りからも『え、洋服作るんじゃなかったの?』って驚かれました」
当初1年くらいで帰国しようと考えていたROCOCOさんですが、師匠からジュエリーデザインを学ぶうちに熱を帯び、結局NYの滞在を延長することになったそうです。
「NYの小さなマーケットやフリマで自作のジュエリーを販売する機会もありましたが、帰国後はジュエリーデザイナーとしてさらに本格的な活動がしたいと思うように。それまではワックス(ロストワックス鋳造=ワックスを利用した鋳造方法)だけで作っていたんですが、帰国してからは彫金の勉強も始めることにしました」
しかし、日本でジュエリーの勉強を始めた彼女は、アメリカと日本の差に気づき愕然とします。
「NYで教えてくれた先生はティファニーのデザイナーだった方で、日本人ではなかったんですよ。『もっと大胆に、ゴージャスに作りなさい』って教えられていたし、向こうではそれで評価されていたんですが、日本ではそれよりも万人向けに作ることを求められている気がして、そこにギャップを感じましたね。ジュエリーとはこういうものだという固定概念みたいなものがあって、作品に魅力を感じるというよりも、誰かが着けているから欲しいという嗜好性が強い。出来るだけ繊細で控えめなジュエリー、無難なものが主流な気がしました。NYはその逆。ジュエリーをアートとして捉える人が多く、とにかく個性的なものが好まれる。最初はやっぱり戸惑いましたね。あと、素材の問題もありました。NYは石やチェーンの種類も多いし値段も安い。作れるものもおのずと変わってきてしまいました」
アクセサリーではなくジュエリーを作りたい!
いきなりですが、アクセサリーとジュエリーの違いって何だか分かりますか?
どちらも指輪やネックレス、ブスレットなど身に着けるものであることには変わりませんが、正確にいうとジュエリーは宝石類。一般には貴金属・宝石類を加工した装身具のこと。これに対してアクセサリーは素材を問わず、衣服を引き立てるための装身具の類い。装飾品全般を指します。ざっくり言うと、ジュエリーは希少性のある素材で作られた装身具で、アクセサリーはそれ以外の装飾品。ROCOCOさんは経験と知識を深めるうちに、アクセサリーではなくジュエリーに情熱を注ぐようになりました。
「日本にハンドメイドブームが訪れた4~5年前。当時は海系のアクセサリーを作っている人なんてわんさかいて。これで帰国して同じようなことやっても、埋もれて終わっちゃうなって危機感が芽生えました。それがNYの滞在を延ばしてジュエリーの勉強を熱心にした理由のひとつで(笑)。帰国してからは、海をコンセプトとしながらも、ビーチだけでなく街でも普通に着けられるジュエリーを目指して作品を作るようになりました。2017年に高知県でコレクションの撮影を行ったんですが、これが自分にとってのターニングポイントになりましたね。帰国して初めて本格的なコレクションを手掛け、ちゃんとした撮影を行ったのもその時。それまでNYで作ったものはまだアクセサリーとしての要素というか、名残があったんですが、ジュエリー1本にしようと決意したタイミングでもあったんですよ。メンズラインもそこから展開しました」
なお、『Marero』ではオーダーメイドも手掛けているとのこと。デザインはもちろん、ブランドに拘る全ての作業を1人で行っているROCOCOさんに、苦労話を伺ってみました。
「制作の期間は長くて1~2ヶ月くらい。ただ、デザインに時間が掛かってしまうのと、追い込まれないとできないタイプなので、スケジュールの調整が大変ですね(笑)。でも、あまりに複雑すぎたりして、これは絶対作れないなって作品はできる人に頼んじゃいます。自分はデザインだけして、あとは業者さんにお願いして3Dプリンターで作ったりというパターンもありますし」
一流アーティストの両親に囲まれた日常
アーティスティックな作品を生み続けるROCOCOさんに影響を与えているもの。それは「育ってきた環境」にあるようです。
海に近いところに住んでいたので、物心ついた頃から海にはしょっちゅう行ってましたし、サーフィンなどのマリンスポーツもしていたので、ビーチカルチャーに影響を受けていますね。あとは何と言っても、アーティストである両親の影響が大きいです。母はイラストレーターで、父親は映画や広告の分野で特殊造形を手掛けるアーティスト。家には常に2人の作品が溢れていたし、特殊な環境で育ったと言えるかもしれませんね。2人とも現役バリバリで感性豊かなので、私がちょっと無難なものを作ってたりすると、『それだと普通じゃん』って横から厳しいツッコミが入ってきたりするんです(笑)。ちなみに、前回やった『OCEAN CITY』のコレクションの時は、リングホルダーを母親に作ってもらいました。両親には色々な意味で頭が上がりません(笑)
海とアーティストの両親。さらに、現在の彼女を形作った大切な要素として、服飾学校とNYでの経験も忘れてはいけません。人生に無駄なことなどないし、起こるのは偶然ではなく必然なのだと、そんな話を体現したようなお話です。
「NYには色々な人種や職種の人がいて、その中で『何でもアリ』という精神を学べたこと。そして、色々なジャンルの人と仲良くなって刺激をもらえたのも財産ですね。ジュエリーという枠に囚われず自由な発想ができるようになったのは、NYでの経験のおかげかもしれません。あとは、服飾の勉強をしたことも大きかったですね。学校では多くのデザイナーの作品や、ブランドの歴史などについても勉強できたので、ジュエリーだけでは学べなかった発想の仕方も少しは身についているのかも」
発想の仕方については「泡とか波とか、あるいは海以外にも花とか葉っぱとか。自然のものからインスピレーションをもらっていることが多いですね。面白いものを見つけたら、何とかジュエリーのデザインに活かせないかと画策します」とROCOCOさん。その言葉にふと、かの建築家ガウディのことを思い出しました。植物や動物をモチーフにした作品が多く、サグラダファミリアにはクジラの背骨にインスピレーションを受けているパーツもあることを話すと、「偶然ですが、私も口を開けたクジラや、骨をモチーフにした作品を作っています! なんか、嬉しいですね(笑)」とのこと。特に最近は、他ジャンルのアーティストの方とコラボレーションする機会が増えているので、影響を受ける範疇も広がっているそうです。
デニムやレザーのように育てて欲しい
比較的シルバーのジュエリーが多いという『Marero』。その魅力はどういうところでしょうか。
「経年変化でちょっとずつ風合いが変わるので、それも含めて楽しんでいただきたいです。デニムやレザー製品を育てる感覚に近いかも。長年育てたくなるジュエリーを目指しています。その人の個性の一部になれたら嬉しいですね。ちなみに、ゴールドは10Kや14Kのものが多いんですが、デコラティブなものは18Kのコーティングをかけています。いずれも海水に着けても錆びにくいので、ぜひ海にも着けていってほしいですね。せっかく海をモチーフにしているのに、海に着けていって錆びちゃったら悲しいじゃないですか。実はそれもアクセサリーを辞めた理由のひとつ。アクセサリーに使用する真鍮などの素材は錆びやすいんです。錆びに負けずに海でも着けられるものって考えたら、やっぱりジュエリーしかないなって。私自身も海に着けていきますが全然平気です。18Kコーティングのものに関しては、もし使っている間にコーティングが取れてしまった場合、ご希望があればメンテナンスもします」
今後は定番のジュエリーだけでなくカフスピンとかネクタイピンといった、ビジネスシーンでも使えるような男性用のアイテムも増やしていく予定。バーテンダーの方にもオススメしたいアイテムになるそうです。さりげなく一生物のジュエリーを身に纏う。男性も女性も関係なく、日常に彩りを添えてくれるアイテムは時として必要なもの。『Marero』の小さなアート作品をその候補に入れてみてはいかがでしょうか?
Marero:公式HP:marero-jewelry.com
Instagram:https://www.instagram.com/marer0/
All Photos by Youichi UeDA
ライタープロフィール
濱安紹子(はまやす しょうこ)
猫と布団をこよなく愛する、三足の草鞋ライター。
音楽メディア、WEB系広告代理店での勤務を経てカナダ・トロントへ。 現地の日系出版社にてライター業に携わった末、帰国後よりフリーランスライターとしてのキャリアをスタート。その傍らで自身の音楽活動、酒好きが高じてバー営業も行っている。
カメラマンプロフィール
Youichi UeDA
「セガ・エンタープライゼス、ソニー・コンピュータエンタテインメントで 14 年間サウンドプログラマとして活動。現在は KKBOX でデータベースエンジニアとして勤務。本業の傍ら 2017 年より写心撮影の業務を開始。ダンスのワークショップを中心に鋭意活動中!」https://www.flickr.com/photos/youichi_ueda/